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ふたりのオオカミ


オレとオマエで
オオカミが2頭
夕日に照らされて
ちいさなケモノが2頭
この赤くて大きな耳が
兄弟のあかし
遊具にたくさんよこたわる
トナカイたちの死体
真っ赤な公園で
2頭で
はげしく
とびはねる



(初出 2002年12月)

食う


女を食う
女の声を食う
女の肉も骨も髪も食う
乳の先端を吸い上げて生き続ける
喉まで串刺しにして食う
かわいい女を食う

男を食う
男の乳を吸う
男をさばいて食う
体中の全ての毛と肛門の奥まで
体を白くして食う
かわいい男を食う



(初出 2002年12月)

地球の気持ち


私の体に穴をあけてください
私の毛をかりとってください
私のはだを削りとってください

そうしなければあなたは生きられない

ゴミだなんていくらでもまき散らしていいのです
あなたが作ったものはどれもすきだから

花も草も好きなだけつみとっていいのです
あなたの目が少しでも輝くのなら

私の体を焼きはらってください
あなたの家を建てなければいけない

私はあなたのゆくすえに全てあずけたのです

どうか私の目が閉じられていく時
あなたがそばにいてくれますように



(初出 2004年8月)

FAMILY TREE


1 超心理 〈 電子機器と生物学の共存 〉

おなかに明かりを点灯させながら
犬が夜の野原を走っていく様
いくつものひかりに彩られた街の中で
たくさんの家族は手をたたいている
秩序は守られたことや
命を守るということはどういったことなのか等
歓声や泣き声らと共に密かに
電気に編みこむかのようなしぐさ
いつの日か橋の上で
あなたが造ってくれたトンネルの中を
私はあたたかな呼吸を確かに感じながら入った
帰宅したお節介妬きの小さなあなたは
太いコードをつたい静かな休息へと入った
夜明けにそっと忍び込んでは
いつ目を覚ますのかとそわそわしたりして
やがていつの日か私達の約束は明らかになり

テーブルには誰がどこに座るのかを知っているかのように
スプーンがきっちりと置かれるようになり
祈りはお互いに秘密を供用しあい
夜の野原にひびきわたるささやき声の中
家族の木が植えられていた
誰もが必ず交わされるどんなに小さな愛も
歓声とともに鳴らされる手の音や
子供達のベルの音や
命が消えることすらも教えられて
その私達は自らの命を
この木の根と
幹と枝のわかれ目等に
キスをしながら
預けたのです



2 we

我々は悟らなければならない
我々は自らの手足を縛りすぎるのだと



3 θ

ある日 あなたの精神が
私達の談話している空間を ついに 超えてしまった!
思えばあなたはとてもシャイで
私が考えていたよりもあなたの溝はずっと深かったのね
θθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθ
↑これは私の推測です あくまでね
ёёёёёёёёёёёёёёёёёёёёёёёёЁ
あなたはユーモアがあるのだし   〓
本もたくさん読んでいたわね    〓
社会の一員になるということは 決して
自我を殺すことではないのだから  〓
そんなに怖がらなくても大丈夫なの 〓
怖がらないで 怖がらないで           θ



4 彼

彼は布に包まれていて
私がどこにあるのかと探っていると
彼は「そんなのないよ」と
意地悪な笑みをして



5 おいかけっこ     σσο

私たちひとつひとつが まだ珊瑚の粒だった頃のこと
表面にはえたかわいい毛をぴんとたてて 手当たりで
δ←こんなかたちのプランクトンをからめとったり
あとの列にならんでいるみんなに合図して

ありったけの嬉しい気持ちをぶちまけて ひとつぶとして ただただ 存在に付属することに専念している
いちもくさんにかけだす 合図を待っている
э あなたの考えた遊びが最高に楽しかったοあなたは天才!
э みんなが夢中だった 時がたつのも忘れて
ほらみて!ここだよ!
みんなの息がいっせいに解き放たれて
その光景は まるで  何かしらの
片方がもう片方に働きかけているような
一瞬だけの またたき
そんななかで 私はあなたのことを見て
胸が熱くなった



(初出 2005年7月)

わが ぴっちゃい さーたーとぅ


わが ぴっちゃい さーたーとぅ
みーくーてぃ
でーじな ちゅーとぅぬ わかりが いゃー まむとん
みーくーてぃ みーくーてぃ

〈わたしが額にキスをしたらどうか目を閉じて
 大切な人との別れもあなたを守っているのだから
 目を閉じて 目を閉じて〉


いゃーや ぴさ ぱたぱた しみてぃ
ゆぬなか ふぁっち いくさ

いゃーぬ てぃーが ざーがーれーん ぬびぃてぃいくさ
ざーがーれーん ざーがーれーん
〈あなたは足をばたつかせて世界をかけぬけていく
 あなたの手がどこまでも伸ばされていく
 どこまでも どこまでも〉


つーずーとぅ ゆぬなか ふぁっち いけー
わんとーまーじ へーてぃくば
いゃーや ぬーねん へーららん わんふがに
まっちょんどー まっちょんどー

〈思い切り強く世界をかけぬけたらわたしの元へかえってきてね
 あなたは何にも代えられないわたしの宝物
 待っているから 待っているから〉


みーあきれー すぐすばに いゃーが うてぃ
わが ぴっちゃい さーたーとぅ

〈目覚めると傍にはあなたがいてわたしはあなたの額にキスをする〉


(初出 2006年4月)

アスパラガス・貝


あの時

貝の管がアスパラガスをしゃぶっている間に
どれだけ尊いことをして残せただろう

山が泳いで指が頭上をきる

口など何の意味もなさないと
あなたは丸い突起になってせがんでいたね

あの時あなたは笛だったのだ



(初出 2012年12月)

言葉を編むひとびと


幼子と死にわかれた
親をなぐさめるとき

目の見えない誰かに
緑色を問われたとき

ふたり裸でいるとき

言葉のひりきをしる

それでもひとびとは
編んだ言葉でなにか
しばろうとしている



(初出 2013年12月)

父さん


僕は父さんの子でよかった僕は父さんが大好きさ僕は父さんとふたりで暮らしていく
まだそんなことを言っているのかお尻をひっぱたくぞ
父さんは僕の唇が好きでしょ
そうだよいつかの父さんはおまえの唇が好きだよ
僕は父さんのおちんちんが好きだいつか僕のもこんなふうになるかな
父さんはおまえのお尻と瞳が好きさサッカーをしてる時のおまえの
また歌ってよ父さん歌って
ここにおまえの父さんはいないよただ荒地が広がってるだけ
これからそこに咲いてる花を摘んでくるよ
おまえの手で触れるとその花はきっと枯れるよ
そんなこと言わないで父さん僕泣いちゃうよ
泣きだすよりまえにどこかの父さんのところへ行っておいで
そんな父さんはいらない父さんじゃなきゃいやだ父さんがいいよ他の父さんじゃいやだ
そんなのは昔みたおまえの夢だよ
それは何
誰かが落としていったお菓子だよそれをおまえは食べたんだ
悪戯してやる
鳥の歌を聴きなさい耳をすませて
殺してやる
耳をすませていつか来るその時を待ちなさい
そんなこと言わないで父さん僕泣いちゃうよどうしてもあの蜜を吸いたいんだどうしてもあぁおまえのいつかの汚い女なんて死ねばいいのにあぁあぁ父さんお願いだよ
ここにおまえの父さんはいないよただ
ただ何
荒地が広がってるだけ



(初出 2015年8月)

よるの月

 


まあるいかおした月を見て
いっぴきの魚があそんだ

ぽちゃん

なみがたった

魚のはねた音をきいて
だれかがよかぜにふかれた

くしょん

くしゃみをした

(初出 2016年2月)

あのひと

 


また裸のあのひとと僕の裸が
抱きあってるのが見える
古びた記憶の中に

あのひとはこれから出逢う僕だ
僕もきっと同じ言葉を投げるのだろう
新しい僕に

世界は酷い奴だよと
ぶつくさいって煙草みたいに吸ってた
僕のペニスいつも

その時の顔がまたあのひとの顔がまた
あのかたちに変わり始めている
その唇の新しいすがたを僕は知りたい

(初出 2017年8月)

姉さんの歌


     

きょうも川の流れる音に混じって
姉さんの歌が聞こえる
私が花を買って帰る日はいつも
姉さんが川上のどこかで歌っている
なぜあの歌を歌うのかを私は知らないけれど
きっと母さんはその理由を知っているはず
私がどこで花を買うのかも知っているから

毟りとった花弁が
川下へ流れて消えたように見えても
花は死んだ事にならない
この川は私たちが生きていけるように
これからもずっとここにある

姉さんは私が花を買う日を知っている
それはきっとあの事をあの時知ったから
だからあの歌を私に聴かせる
川の音に忍ばせて
そして私たちがこうしているのを
きっと母さんは知っている
水の中に母さんの耳が潜んでいる


(初出 2018年11月)


幕府のイヌが一匹
ジャコの群を盗み見て
ふと微睡めば八方塞がり

一目散に散る群を
掴めど追えども夢のうち
あぁ隠し包丁隠し水

 

 

(初出 2019年6月)

 

 

 

 

 

 

 

 

食う
地球の気持ち
FAMILY TREE
わが ぴっちゃい さーたーとぅ
アスパラガス・貝
言葉を編むひとびと
父さん
よるの月
あのひと
姉さんの歌

宮城 信大朗(みやぎ しんたろう)

1985年生まれ  沖縄県出身 在住

小文芸誌「霓」主催

第1詩集『NEW』 2006年出版

第2詩集『恋人』 2015年出版

©SHINTARO MIYAGI

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